融点

※女の子攻めっぽいシーンあり/大したことしてないですが不健全なので一応のR15


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その日はふたりとも、めずらしくひどく酔っていた。新しく買ったワイングラスをさっそく使ってみたいから、そんなことを言い訳にしつつ、次の日頭痛でうめくことになるだろうことは知らないフリで普段よりハイペースにボトルを空けていた。

些細なことで発生する笑いは、ふたりの間でお互いに伝播しあって引くことのない波のように広がり続ける。何で笑いはじめたのかももうわからないのに、ソファで体重を預け合いながら、わたしたちはずっと声を上げて笑い転げていたのだ。

なんとか笑いは落ち着いても、しばらく二人とも顔を赤くしてニマニマした顔のままでいた。自分の体温なのかブローノの体温なのかもうわからないけど、身体が触れ合っているところはとにかく熱くてたまらない。ブローノは普段の白いスーツではなく、色は同じ白でも柔らかな素材のシャツに着替えていた。だからこそ、触れればいつもよりずっと近くに彼の体温を感じる。

ちらりと横を向くと、同じタイミングでこちらを見つめるブローノと目があった。酔ったせいか、彼の目の上には潤んだ膜が張っていて、とろりと甘くにじんで見えた。……赤い顔とその瞳を見ただけで、私の身体の奥にじわりと体温とは違う熱が湧き上がるのがわかった。

「……ねえ」
わたしの言葉に、彼は返事の代わりにまたグラスを口に寄せながら眉を持ち上げて見せた。

「…………触って、みてもいい?」
服の上から彼の二の腕のあたりを柔らかく撫でながらささやく。普段はリードされるばっかりだから今日は私がやってみたくて、なんて言い訳めいた言葉を続ける私に、彼は息の音だけで笑って「お好きなように、」そう返して、グラスをテーブルの上に置くと私に向かってゆるく腕を広げて見せた。

……だが、あまりにも堂々とこちらに向かってひらかれた身体を前にして、私は逆にどうしたらいいかわからなくなって視線がさまよいはじめる。

「ほら、どうした?」

にやりと笑ったブローノは、触りたいと言い出したくせにオドオドして何もできないままの私の手をとって彼の首筋に触れさせた。……熱い。滑らかな皮ふの下に綺麗な筋があるのが指先からわかって、それだけでアルコールのせいではないのに心臓がやけに早く脈打ちはじめる。
誘われるがまま、そっと指先で首筋から下に向かって彼の身体をたどっていく。
シャツのボタンの上に指がたどり着いて、私はちらりと彼の目を見上げてしまう。彼はまた、微笑んで「君の好きなようにしたらいい」そう言って軽く腕を広げて見せる。

熱を持った指先で、そっと彼のシャツのボタンを外しにかかる。ひとつ外していくごとに、……彼の身体を覆うものを私の手がひらいていくごとに、心臓の音がどんどん派手になって、更に顔に熱が集まっていく。……火でも出そうなくらいだ。

なんとか最後のひとつまでボタンを外しきる。それだけで私は謎の達成感を感じていた。
さあこれからどうするんだ、そう聞くみたいに、彼ははだけられた自分の身体をちらりと見てから、口角を持ち上げて私を見つめた。

……眉が寄せられたその悪い笑みにたまらなくなって、むき出しになった、……私がむき出しにした、彼の鎖骨のあたりに顔を寄せる。綺麗に浮き出たそこに柔らかくくちびるをのせてから、ハッとなって思い出す。彼が普段着ているスーツのデザインを。

鎖骨の上には乗せるだけのキスをして、私は少し迷ってからソファの上に投げ出されたままの彼の手を取る。力を抜いているからか少しだけ重く感じるその手のひら、手首まで覆う袖をめくる。それからためらうことなく彼の手首の内側に口づけて、軽く吸って痕をつける。
視線の端、ブローノが少しだけ身体を震わせたのが見えて、私はそれに更に興奮していた。
私が口を離してから、彼は赤く浮き上がったその痕を眺めながらつぶやく。

「……こっちのほうが、痕ついてたら目立たねえか?」
「でも鎖骨だとスーツから見えちゃうかなって……」

それを聞いて一瞬あってから彼は目を細めると、今度は自分の首の根元を指差して言った。……ああほんと彼の顔が赤い、ブローノもこんなに飲みすぎることがあるんだなあとしみじみ思う。

「ここに付けてくれよ。……ここなら、服で隠れる」
確かに彼が言うとおり、いま指差して見せてくれたのはいつものスーツなら襟で隠れる場所だ。
「それに、もっと心臓に近い」
言いながら、彼は私の手を取って……今度は自らのはだかの胸の上に指を触れさせた。

熱で浮かされどうにかなってる自覚はある、ただ自覚があるのと理性を働かせられるかは別の話だった。
私は思わず彼の身体に腕を回して、それから言われるがままにブローノの首筋にくちびるを寄せて、そこに舌を這わせる。彼が鼻にかかった息を吐き出すのを聞く。しがみつくように抱きつきながら、わたしは彼の首筋を吸った。
ちゅっ、と音を立てて離れてから、彼の息だけじゃなくわたしの息も荒くなっていることに気付いた。

ブローノの首元に、わたしがつけたキスマークが残る。思わずそれをじいっと見つめていたら、彼はちゃんと痕はついたかと聞いてくる。ゆっくり頷いて見せたら、彼は満足げに笑って見せた。

その笑顔を見たらたまらなくなってしまって、わたしは彼にもう一度抱きつく。……それから、アルコールのせいで感情が溢れやすくなってしまったのか、彼の温かくほんのり汗をかきはじめた身体、そして今生きている尊いその存在に、わたしがこんな風に内側まで触れることが許されているという事実ただそれだけで泣けてきて、気づけばはだかの彼に抱きついたまま、ぽろぽろ涙をこぼしていた。

静かに泣いてるつもりだったのに彼は泣き出したわたしにすぐ気づいてしまって、こちらの顔を覗き込んで眉を下げながら、子供をあやすみたいに「どうしたんだ、そんなに泣いて……ああ泣かないでくれ、Bimba!」自分だって泣きそうな響きの声で、優しくこちらに言い聞かせるみたいに背中を撫でてくれた。

自分だって急に泣けてきた理由がうまく説明できない。もごもご言うばかりの私をブローノがゆっくり待ってくれるから、つっかえながらもなんとか言葉にしようとする。

「なんか……こんな風にさわっていいって、ブローノが思ってくれてるってことが、凄いことだなって思ったら、なんか……。……あの、ごめんね、意味わかんないよね」
言いながら、涙をなかったことにしようとするみたいにゴシゴシ自分の目をこする。ブローノは私のその乱暴に目をこする手を掴んで止めた。

「……わかるさ。俺もいつも思ってる」
手首の内側にキスマークがついた彼の手が、私の頭をゆっくりと撫ではじめた。

「こうしてきみの髪を撫でることも、きみにキスすることだって、……何ひとつ当たり前だと思ったことはない」

こちらの頭を撫でていた手のひらは今、私の頬を撫でている。指先が濡れた目尻を拭ってくれる。私はいくらだってブローノにだったら触られたってかまわないけど、彼もまた、そのふれあいが例え私たちふたりの間であったとしても、当たり前のものだとは思っていない。相手の柔らかい部分に触れられること自体が奇跡みたいなことだと、そう気づいてしまったからこそ泣きそうなのだと、彼はわかってくれているのだ。

いつも与えられるばかりだから私がリードして、ブローノの普段見たことのない顔がみたい、ただそう思っただけなのに。酔っぱらって感情が溢れ出すばかりになってしまった今、私はもう彼にやらしい触れ方はできなくなってしまっていた。はだけた服のまま私を抱きしめてくれる彼を強く抱きしめ返す。

「……今日はやっぱり……こうしていていい?」
ブローノは、こちらの目を見て優しく頷いてくれた。本当に、いつだって、彼はやさしすぎるくらいやさしい。
彼の裸の胸の上に頭をのせながら撫でられているうちにとろとろと眠くなってくる。私はブローノの熱に触れながら、だんだんふたりが一つの熱の塊になっていくように感じていた。