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ブローノ・ブチャラティの誕生日、それはブチャラティ本人には『静かに過ごす』という選択が許されない日だった。

まず同じチームの部下たちが騒いで祝い、彼らの騒ぎを聞いた街の人間たちはプレゼント代わりにいろんなものを持たせてくる。
その積み重ねで、いつからか彼の小さななわばりであるその地区は毎年9月の27日には、ちょっとした祝祭の様相を帯びるようになっていた。

ブチャラティはもちろんそれを嫌がらない。仲間たちが騒ぎながら祝うのも嬉しそうに受け止め、街の人間がおずおずと差し出してきた言葉やプレゼントも断らない。ブチャラティは礼儀正しく彼らの好意を受け止め、渡されたものに素直に喜び、微笑みを浮かべて礼を言ってみせた。ギャングらしからぬ人好きのする態度に苦言を呈す人間も少なくはないが、ブチャラティはそういった態度が街の人々にもたらす効果に自覚的でもあった、だからこそ喜んで見せたのだ。

それから、夜になれば同じチームの人間だけで、いつものリストランテで食事会をして早朝まで飲み明かすのが常だった。

だが、その日は違った。

「お! 来たな!」

そう口にしたのはミスタだった。リストランテの、いつのまにかブチャラティチームの貸切になってしまった奥まった部屋。誕生日を締めくくる食事会の最中、ブチャラティが背を向け座っていた部屋の入口の方に身体を向けていたミスタは、ブチャラティ越しにニヤリと笑って声をかけた。
ミスタの仕草で、その場にいた人間が一斉に振り返る。その瞬間ぱあっと顔を明るくして一番に席を立ったのはナランチャだった。

「ナマエ~~!!! おかえり! 久しぶりじゃあねーの! すっげ~いいタイミングに帰ってきたなあ!!!」

嬉しそうに言いながらナマエに飛びつくように向かっていったナランチャに、ナマエもまんざらでもなさそうに微笑んで手を伸ばした。

ナランチャに勢いよく肩を抱かれ、派手な歓待に少し照れたように微笑む彼女を見た時、ブチャラティは真顔のままガタンと大きく椅子を鳴らして立ち上がった。

それからつかつかと彼女に近づいていくと、無言で近づいてきたブチャラティに対して少し戸惑った顔をする彼女を、黙ったまま強く抱きしめたのだった。それから、息の音が目立つ一言を、縋り付くように彼女の耳元で囁いた。

「……会いたかった、……とても」

ぎゅう、と強く抱きしめるその仕草は同僚や友人というよりまさしく「恋人」にする抱擁で、それを見ていたほかのメンバーは、その珍しいくらいに弱ったブチャラティの姿に一瞬驚いた表情を浮かべたが、この〝再会〟の意味を知る彼らはすぐにそれを微笑みに変えた。

ブチャラティの部下であり恋人であるナマエが、ネアポリスの中央を遠く離れてから――実に半年が経っていた。

『ある幹部が留置場から出てくるまでの間、その妻と娘の護衛を頼みたい』

それが、ポルポとブチャラティを経由してナマエ個人に届いた任務だった。
『留置場に入れられてから出てくるまで』、その一言には、それが決して短期の仕事ではないこと、しかしながら当たり前のように司法を捻じ曲げる予定だということ、その二つの意味があった。
本来なら幹部が自ら守らなければならない家族を、留置場からは守れない。だからかわりに信頼できて強さのある人間が必要だ、そしてその信頼には色恋の点でもおかしなことをしない人間であるかどうかも重要な話だった。
そして彼は留置場には放り込まれても、裁判で裁かれることはない。ネアポリスの司法もすでにパッショーネの手中におさまりつつあり、下っ端の警察官や検事たちが必死に逮捕、起訴に持ち込んだところで――パッショーネの幹部まで上り詰めた人間が、自分の求めないタイミングで牢に入ることはないのだ。

自分たちだって叩けば埃の出る身だ、法の網が意味をなさないくらい穴だらけにされた方が仕事は進むはずなのに、それでもナマエがその事実に言いようのない苦みを感じるのは確かだった。
それは同僚であるアバッキオが「同僚になる前」の事を聞いてしまっているからか、あるいは――敬愛するブチャラティが、こんな生き方をしながらもどこかで正義はあると信じているのを知っているから、だろうか。
答えを出せないままナマエはその任務を負い、ネアポリス中心部から遠く離れた僻地へと赴いたのだった。

幹部がもともと住んでいた、街中の人間が彼の家だと知っている大きな屋敷からは安全を確保するために離れる。幹部の指示によるほぼ夜逃げというような引っ越しを経て、人気のない場所にたたずむ仮の家で、彼の家族とナマエは泊まり込みでの共同生活をはじめたのだった。
その場所を知るものはほぼ皆無だった。そしてその場所を誰に伝えることも許されてはいなかった。たとえ同じ組織の中の人間であろうと。

覚えのない土地での生活の息苦しさの中でも、幹部の幼い娘が、これまで彼女の家を警備していた、ごつい見た目のどう見てもギャング然とした男たちとは違う自分に存外懐いてきたのには、素直にナマエは喜んでいた。

表面上は、何も起きない、おだやかな毎日があるだけだった。だがそこには嵐が来るのかどうかもわからない窮屈な「穏やかさ」だけがあった。
何も起きないからこそ気が休まることのない日々。今日は何もなくとも、明日も無事かはわからない、明後日、その次は? 隠れて過ごすということは、その終わりのない恐怖に耐え続けることにほかならなかった。
そのプレッシャーに押し潰されて少しずつ精神が擦り切れてしまいそうになるときに、彼女の携帯電話は鳴った。
発信者の通知画面を見て、ナマエはそっと息を吐くと、じわりと温かくなる指先に気づきながら電話を取った。

『……体調は? 変わりないか』

そんな風にブチャラティは、ナマエに時折電話をかけてきたのだった。
言葉少なに、夜に溶けていく彼の囁き声。携帯電話越しに聞くその声に、ナマエは身体の奥がじんわりと溶けていくような感覚を覚えていた。
それと同時に、今はどちらのブチャラティが自分に話しかけているのか、ふとそんなことを考えてしまう。上司のブチャラティなのか、それとも恋人のブチャラティ、なのか。
だがそれを聞き返すことはせず、ただ静かに返す。
「元気だよ、……娘さんがだいぶ懐いてくれて、なんていうか……かわいい。すっごく」
『……そうか、それはよかった』
それでも、本当のことを言ってしまえば今すぐにでも会いたい、だがそう言っていいものだろうか――わずかな逡巡がナマエの口を閉ざした。「会いたい」という欲をあたりさわりのなさそうな一言に代えて、続ける。
「そっちは変わりない?」
『ああ。……変わりはないが……』
ブチャラティは一瞬言葉を切って、それから静かに続けた。

『……君に会いたくて、困るよ』

囁かれた言葉、自分が言っていいものかと迷ったのと同じ一言。ブチャラティの言葉は温かいものを身体に注ぎ込むようにナマエの耳を熱で焦がした。

「……ブチャラティはさあ……ズルいんだよ」
私も会いたい、その一言を言うには照れが入り、当てこすりのような言葉が口をついて出た。それに返してくるブチャラティの声は、どこか楽しげですらあった。
『……ズルいのか?』
「ああ。……ほんとにズルい男だ」

そう囁いたナマエの目は寂しげに細められていたけれど、口元は幸福によって緩んでいた。見知らぬ土地でひとり孤独に、いつ襲われるかもわからない閉塞感のある中、スタンドはおろか銃もまともに使えない女と子供を守る役目。擦り切れそうな心を、ブチャラティの声と思いが確かにほどいていく感覚が、心地よかったのだ。
今自分が潜伏しているのがどこなのか、それが同じチームの中の人間だとしても言うことができない。どこから情報が流れるかわからないからだ。だからこうして、他愛のない電話だけが二人をつないでいた。

そんな日々が半年ほど続いたのち――ブローノ・ブチャラティの誕生日であるこの日に、彼女は仕事を終えて戻ってきたのだった。

単純に再会を喜んでいいだけの話ではないことを、二人ともわかっていた。やはり幹部は、司法の現場の人間が積み上げたものを突き崩して、悠々と家族の元に戻ってきた。それをパッショーネの人間としてもちろん喜ぶべきだとはわかっていたが、素直にそんな顔が出来ていたかはわからない。それはもしかすると、ブチャラティとナマエ、二人ともがはっきりとは口にしなくとも心の中に同じ感情を抱いているであろうことを、わかっていた。

だとしても、仕事から戻ったばかりにもかかわらず、ブチャラティの誕生日が終わってしまう前にと慌ててリストランテに飛び込んできたナマエを抱きしめられることを、ブチャラティは素直に喜んでいた。
ブチャラティは、リストランテにやってきた彼女をテーブルに座らせるとすぐに「補給」のように食事をさせ、そのまま静かに、しかし逃げられないようなやり方で彼女の手を握った。そのまま「今日はありがとう、祝ってもらえてうれしかった、また明日」とチームの人間に言い残して、ブチャラティはナマエを連れてリストランテを飛び出したのだった。

突然リストランテに取り残されることになったチームのメンバーは、冷静に取り繕おうとして全く取り繕えていないブチャラティの姿を見て、むしろ微笑んでいた。主役がいなくなってしまっても解散してしまうには名残おしくて、本人不在の誕生日会を続けることにしたチームのメンバーたちは、「ブチャラティに」と静かにグラスを交わしあっていた。

◇◇◇

「……そんな反省しなくていいのに」
「いや、……今になって、やりすぎたと……ダセえ真似してすまない」

ブチャラティとナマエは、彼の部屋の中で静かに言葉を交わしていた。ブチャラティはソファに沈み込みながら、自分の照れた表情を半分隠すように顔の上に手のひらを置いている。そうしながら、低い声で囁く。

「……悪かった、オレだけじゃあねえ、あいつらにも久しぶりに会ったんだ、話したいことも、あの店で食べたいものもあっただろうに……」
「大丈夫、ごはんはつまめたし、……私は〝今日の〟ブチャラティに会いたくてわざわざ夜中になってでも帰ってきたんだから」
「……」

ブチャラティは彼女の言葉を聞いて、顔にのせていた手を外しながらナマエを見つめる。ナマエはそれに気づかないまま、立ち上がって自分のカバンを開くと、小さな手帳を取り出していた。

「そうだ、帰ってきたからまずは報告した方がいい? 一応気になることはメモを取っておいたんだけど……。……ブチャラティ?」
返事がなかったのを不思議に思ったナマエが後ろを振り返るより、ブチャラティが彼女を背中から抱きしめるほうが先だった。
「!」
ナマエの背中にブチャラティの熱が伝わる、彼はこの自らの部屋にナマエがいることを確かめるかのようにぐっとナマエを抱きしめて、その後頭部に頬を寄せた。

「報告は、いい……明日で構わない。……君さえ、許してくれるなら……すぐにでも、触れたいんだ」
衣擦れの音すら響くような静かな夜の部屋の中で、彼はその夜の静寂を崩さないように、そっと囁いた。
だがその声の余裕のなさに、抱きしめる腕にぎゅうぎゅうと力が込められるやり方に、ナマエはうまく息ができなくなる自分に気づいていた。

(……こんなに、余裕なくなっちゃうんだ……私が欲しくて?)

認識した瞬間、ナマエはぐらりと熱で体の芯が溶けるような感覚を覚える。
ブローノ・ブチャラティに求められるということがどれだけのことなのか、今あらためて理解する。そして自分の方こそどれだけ、半年ぶりの彼にどれだけ触れたかったのか気づかされてしまうようだった。

しかしブチャラティは、ナマエが言葉や行動でなにかを返す前に、抱きしめていた腕からそっと力を抜いた。ナマエがあわてて振り返ると、困ったように眉を下げたブチャラティがナマエを見つめていた。

「……どうしたの?」
「すまない……今日まで、気を張って重い仕事をしてきたのは君だ。……それなのに、自分の欲を押し付けるなどと……」
ナマエはブチャラティの言葉を途中で断ち切るように、ブチャラティを正面から抱きしめた。抱きしめてから、懐かしい感覚だと思った。彼の胸元、あらわになった肌に頬を寄せる感覚。ずっと恋しかったこの感覚。この香り。
恋人であり上司でもあり、どちらにしたってとにかく優しくある彼、だからこその葛藤で戸惑うこの男が、ナマエにはひどく愛おしくてたまらなかった。

「変な遠慮しないで、……触って、ほしいよ」

ナマエはブチャラティの手をとると、自分の頬に寄せる。ブチャラティの手に自分の顔を包むようにさせながら、その手のひらにくちびるを寄せて、音を立てて何度もキスをする。そうしながら、ブチャラティの方に視線を流すように見つめて、その手に顔を擦り寄せる。

ぐっ、とブチャラティの眉が寄る。それから目を細めながら彼は囁いた。

「……どこでそんな誘い方を覚えて来るんだ……」

ブチャラティがその一言を囁いてから、二人はもつれるようにベッドルームへと飛び込んだ。

どこか〝ブチャラティらしくない〟くらいの勢いで、彼はナマエをベッドに押し倒す。彼女は決して自分の前から逃げないとわかっているのに、ここにいるのだと理解したくて、閉じ込めるように腕に力を込めて押さえつけて、そのまま口づける。

「んんぅ、ふ、っ……ん……」

ナマエがこぼす声すら全て飲み込もうとするかのような性急な口づけで、ブチャラティは彼女の舌の奥まで撫でて触れる。ふたり分が混じり合った唾液が、ナマエの口の端からこぼれていく。呼吸が続かなくなってきたところで何とかお互いを引き剥がした二人は、荒い息をあげながらベッドの上で見つめあっていた。
ナマエはにやりと笑う表情の奥で、その瞳が熱で溶かされているのは確かだが、真夜中の恋人同士のやり取りの真っ最中と呼ぶには少し食えない雰囲気を漂わせた笑顔を浮かべて囁いた。

「いつもよりぐいぐい来るね……」

心から嬉しそうでもあり、同時に少しふざけて見せるようなその言葉に、ブチャラティは彼女の想像と違い真面目な顔をしたまま囁いた。

「……お前が目の前にいることがどれほどの喜びか、お前はわかってない」
「そんなに寂しかった?」
「……二度と会えなかったらどうしようと、考えた時もあった」
想像もしていなかった一言に、ナマエはそっと目を見開いた。それから、目を細めながらブチャラティの耳元から後頭部を柔らかに撫でる。
「……こわい思いさせて、ごめん」

怖い思い、彼女がささやいたその一言にブチャラティはかすかに目を見開く。

(……そうか、オレは……怖かったのか)

彼女を、自分の知らないところで永遠に失うことがあったら。その恐怖を見えないフリをしていた自分に気づかされながら、ブチャラティはナマエの鎖骨の上に唇を寄せるだけのキスをする。それから、軽いリップ音と共に赤い痕を残す。

「……いっぱいつけて、……っ、んっ……」

嬉しそうにささやかれた言葉への返事の代わりにブチャラティは鎖骨の上から少しずつ下に向かってナマエの肌の上に口づけを重ねていく。鬱血の痕が赤い花のように彼女の肌にひろがっていく。
ナマエの服をくつろげていくブチャラティの手が肌の上をなぞるだけで、彼女の身体は震えた。下着もずり下げられて、だが衣服の全てを脱ぎ捨てるまでの余裕はなくて。ふたりとも、そのまま目の前の相手に触れることに夢中になっていた。

「……ナマエ」
「うん…あ、ッ……」
「名前を、呼んでくれないか」

ブチャラティの懇願にも似た響きの一言に促されるように、ナマエは囁いていた。

「ブローノ……」

その言葉を聞いてから、今日は頭からつま先まで全てを自らのくちびるで触れると決意したかのように、彼は丁寧にナマエの全てにキスを落とした。舌の柔らかな感触と吐息が触れるだけでびく、とナマエの体が震えて、それからブチャラティの頭を包み込むようにそっと彼女の腕が抱きしめてくる。

「ほんとに、ほんとにブローノだ……」
荒くなった吐息の合間に、まるでうわ言のようにささやいてぎゅう、と抱き着いてくるナマエに、ブチャラティは自分の腹の奥からなにか熱いものが込み上げてくるのを感じていた。

「……ナマエ」

ブチャラティがかすれた声でそっと彼女の名前を口にすれば、ナマエはそれにあいまいに微笑んで見せてから、彼に顔をすり寄せてささやく。

「……ずっとこうしたかった」

彼女の囁きを聞いたブチャラティはわずかにくちびるを噛む。彼はたまらない様子で目を細めると、それから再び相手の口を塞ぐようなやり方でくちびるを寄せて、顔を擦り寄せる仕草で何度も角度を変えて深く口付ける。

「……ん、…ふっ、」

ナマエのこぼした苦しそうな息の音を聞いてから、ブチャラティはいつまでも続けられそうなキスをなんとか切り上げた。ナマエの顔をじっと見つめながら、かろうじて冷静には見える表情で、しかしその瞳に浮かぶ熱だけは隠せない顔で彼女に触れ続ける。鎖骨の下からはじまるふくらみの形を確かめ慈しむようにくちびるでたどり、熱を帯びて立ち上がった胸の先を舌で触れる。
「んぅ、あ、……きもち、い」
濡れた舌で撫で、柔らかく口付けて吸って。舌による愛撫を重ねるたびに与えられた快感を丁寧に拾い上げ、腕を体に回ししがみつくように甘い反応を返すナマエに、ブチャラティは夢中で何度も音を当てて奉仕を続けた。
そうしながら、ブチャラティの手はそっとナマエの下半身に伸びていた。太ももを熱い手のひらに撫でられると、ナマエの身体は簡単に震えた。そのまま何度かナマエの太もものあたりを這ったブチャラティの手は、するすると彼女の足をのぼっていって、熱の中心に下着越しにそっと触れる。

「ブローノ……」

縋り付くようにブチャラティを抱きしめながらナマエがささやくように発したその一言で全て足りた。ブチャラティはナマエに求められるがまま、そして自分の欲に従うまま、彼女の下着の間から熱く熟れたそこに指をうずめる。
ゆっくりと身体を押し広げていく指によって、ナマエが短く息を吐く音すら、ブチャラティの中の熱を高めていく。
彼の手をむかえた熱と雫が、彼女がこぼす荒い息と上ずった音で自分の名前を呼ぶ声が、ナマエがどれだけ自分を求めているのかを有り余るほどに伝えてきて――ブチャラティは、少しずつ自制が効かなくなるのを感じていた。

ナマエの首筋に顔をうずめ首筋に舌を這わせながら、何度も指を動かす。彼女の熱そのものが溢れて来たような水音にすら興奮をさらにかきたてられていた。お互いの息の音が上がっていく、荒い息の音が二人分重なる。
ブチャラティは、仕事仲間としての彼女の隣にいるときにはついぞ聞くことの無いような、甘く甲高くかすれたナマエの声に脳が焼けるような感覚を覚えていた。その声は、容易にブチャラティからナマエに触れること以外に割く思考を奪った。
熱くて狭い彼女のナカを、ブチャラティの端正な顔と少しアンバランスですらある骨ばった指が何度も抽挿を繰り返す。最初は浅く、入り口の方をくすぐるように撫で、それからひくついた奥まで一気に指が埋められる。その動きに合わせてナマエは何度も声を漏らし、ブチャラティにしがみついていた。

「あっ…! あ、……イく、っ…ぅ、あ……」

その声と共に、彼女のナカがブチャラティの指をくいしめる。ぶる、と身体を震わせるナマエを思わず片手で強く抱きしめながら、何度もキスを落とす。
普段なら、そこで一度彼女の息が整うのを待つ余裕がブチャラティにはあるはずだった。だが、半年ぶりの熱は、お互いのタガを外すのには十分だった。
もっと、もっと目の前の愛しい相手を感じさせたい、あふれさせたい、求めたい――ブチャラティの中はそれだけになっていた。
改めてちゅっと音を立てて彼女の額に、目元にキスを落としてから、今度は熱を持って硬くなった花芯を撫でる。荒い息を吐くナマエのくちびるにかみつくように口づけて、それから濡れた指でナマエを追いつめていく。

「あ! あっ、……ふ、ぅ……ん、ん!!」

口を吸われ指で追い詰められ、再び彼女の身体が跳ねるのはすぐだった、自分に覆いかぶさるブチャラティの身体にしがみつきながら、彼女は再び達していた。

「……はーっ、はっ……はあ……」
自らの身体の下で大きく肩を上下させて荒い呼吸を繰り返すナマエを見て、ブチャラティはハッとなったように彼女の名前を呼んだ。

「すまない、無理をさせた……」
労わるように彼女の頬に触れ、頭を撫でるブチャラティにナマエは軽く首を振って見せる。それからブチャラティの目を見つめたまま顎を軽く持ち上げると、それだけで何を求めているかは彼に伝わった。今度は軽く、唇を重ねるだけのキスが何度もナマエのくちびるに降ってくる。

「……無理なんかしてないよ、……こうされたかったもの」

満足そうにナマエはそう言って微笑むが、彼女の顔は真っ赤になっており、息もまだ落ち着かない。ブチャラティは自制が出来なかった自らを恥じるように眉を寄せた。その顔のまま、彼女の息が落ち着くまではと何度も頬を撫で髪を撫で自分の方を伺ってくるブチャラティに、ナマエはむしろわざとらしく不貞腐れたような眉を寄せた表情で返した。

「……ちょっと、反省なんてしないでよ」

作ったように少し不機嫌そうに言いながら、ナマエは自分の腹の真上で少し困ったような表情で見つめてくるブチャラティの頬を柔らかくつまむ。頬をむにむにとつままれてもされるがままになっている彼を見て、ナマエの心臓のあたりに、また違う劣情の炎が燃え始める。

ナマエは、ブチャラティの顔を両手で包むと自分の方へと引き寄せる。彼女の方から与えられる口づけに一瞬目を見開いてから、ブチャラティはそっと目を閉じてそれを受け入れる。柔らかなくちびるが重なりあい、徐々に深くなっていく口付け。頭の奥が熱で溶かされてぼーっとする、そんな状況に気づいてから、ナマエはキスをなんとか中断させると、するりとブチャラティの下から這い出て身体を起こす。

キスを中断させベッドの上から出ようするナマエを見てやはり今日のはやりすぎたか、そう思って一瞬寂しげな顔をしたブチャラティを、ナマエはくるりと振り返ると今度は自分が上となって押し倒したのだった。

「寂しいのが自分だけだと思ってた?」

返事を待たずに、ナマエはブチャラティの鼻先を甘噛みする。それから、なだめるようにさっき歯を立てたその場所に音を立ててキスを落とす。

「……私も、たくさんブローノに触りたいし、触られたかったんだから」

そう言って、ナマエは先ほどまでブチャラティがしていたのと同じように、ブチャラティの首筋に顔を寄せ、それから浮き出たのどぼとけのあたりに舌を這わせる。

「!」

驚いて息を詰めるブチャラティに、少し口角を持ち上げながらナマエはそのままくちびるを鎖骨の上までおろして、それからブチャラティの胸板の上にもくちびるをのせる。そうしながら彼女の手は器用にブチャラティのスーツの前を寛げていく。
何度かリップ音を立てて、自らの手が露わにしたブチャラティの鎖骨の上や胸元に口づけてから、ブチャラティがナマエ自身に与えたものをなぞるように、彼の乳首に舌を這わせる。

「……ッ、ナマエ……」
「きもちいい?」

軽いリップ音を立てながら、ナマエは何度もブチャラティの鎖骨の上に軽く歯をのせ、乳首の上に舌を這わせる。
若干戸惑い混じりの顔をしながら、ブチャラティは自分の胸の上にあるナマエの髪を何度か撫でながら囁く。

「くすぐってえ気はするが、」

それを快感と呼べるかはわからない、そう思っていたブチャラティだが、ナマエの赤い舌が自分の胸の上にあるのを見て、そのどこか必死に奉仕するような姿を見て、子猫がミルクを飲もうとする仕草をふと思い出したブチャラティはみぞおちのあたりが熱で重くなるのを感じていた。

「っ…ふ、っく、」

思わずブチャラティが漏らした声に甘い色がついたのに気づいたナマエはふと目線を上げると、彼の方を見てニヤリと微笑んだ。

「よくなってきたのかな……」

いつのまにかナマエの手はブチャラティの下着のふち、腰のあたりを撫でていた。腰骨と下着の間の隙間からするりと指を差し入れて、ナマエに触れている間に熱を帯び硬くなっていた彼自身を撫でて握る。

「……っ、く、」

声を噛み殺したような、喉の奥からこぼれた息の音にナマエは満足げに微笑む。鎖骨の上に音を立てて赤い痕をつけ、そのまま再びブチャラティの胸元にくちびるを寄せてぢゅっと小さな音を立てて、次第に硬くなってきた胸の先を舌で何度も愛撫する。

「……ナマエ…!」

いつのまにか彼女の手によって服の外に出されていた、雫をこぼす硬いペニスをナマエは手のひらで包み、根元から先までを水音を立てながら何度も撫でてブチャラティを高めていく。
抵抗などできず、ブチャラティは胸の上にある彼女の頭を片手で包むようにしながら、彼よりひとまわりは小さな彼女に縋りつくように抱きついていた。

「……はっ、…ぐ、う……」

びく、とブチャラティの身体が軽く跳ねるのを、ナマエは手も舌も止めないまま嬉しそうに見つめていた。
その細められた瞳、慈愛に満ちてすらいる彼女の目と視線が絡まると、ブチャラティはたまらずひそかに歯を食いしばる。

愛しい彼女にこうされることが嬉しくて、ナマエによってすべてを曝け出されたいという感情と、今すぐにでも彼女をもう一度押し倒して触れたいという感情と。今のブチャラティは相反する感情のどちらもを抱いていた。

はじめはやわらかに濡れた肉に胸元を舐められたところで確かにくすぐったいような感覚しかなかったはずなのに、今自分の胸の上にいるのが、半年間ずっと触れられず、それでもどうか一秒でも早く触れたいと願っていた相手であると意識してしまえば、快感に変わるのはあっという間だった。
ちゅう、ちゅ、と彼女のくちびるが甘く濡れた音を立ててたえず胸元をなぞり、彼女の手の中は、ブチャラティ自身がこぼしたもので濡れそぼっている。ぴったりとナマエの身体と身体が重なって、彼女の甘い髪の香りと身体の柔らかな触り心地とを全身で感じながらそんなことをされると、限界はあっという間に近づいてくるのはわかっていた。息が荒くなっていく。

「はっ……はぁっ…、……ナマエ、」

荒くなった呼吸の合間に名前を呼ぶと、嬉しそうに細められた彼女の目がブチャラティを見上げてくる。ブチャラティがナマエを物欲しげに見つめ返せば、すぐにその意図は伝わった。
ナマエは身体をぐっとのばしてブチャラティの顔に自らの顔を近づけると、そのまま口づけを与えた。小鳥が啄むようなかわいらしいキスは、すぐに深くなり、甘く舌を絡ませあうようなものに変わっていく。
そうしながら、ナマエは絶えず、手の中で脈打つブチャラティのペニスへの愛撫も与え続けていた。
欲しがったはずのキスから一瞬逃げるように身体を跳ねさせてからブチャラティは少し焦りすら感じられるような声で囁く。

「ナマエ、……それ……出ちまう、から……!」

手だけでは、今日は最後までイキたくない、その意図で抵抗したことはナマエもわかっていた。だが、彼女はとろけるように目を細めて囁くだけだった。

「ブローノのイッてるとこ、顔見たいから……見せて」
「おい、お前ッ……っ、あ、ぐ……!」

ブチャラティが、背をぐっと丸めて身体をびくんと跳ねさせる。自分の身体の上にいるナマエにしがみつくようにしながら、ブチャラティは彼女の手の中に熱を吐き出していた。

「……ふふ」

言いたいことは色々とあったが、ナマエがニマニマと嬉しそうな笑顔を浮かべているのを見ればブチャラティは何も言えなくなっていた。だが彼女が自分の手に吐き出されたものに熱を帯びた目線を向けたのを目の当たりにしたブチャラティは、彼女が何かをしでかす前に、ナマエの手をとって自らが吐き出した白濁を拭い取ることだけは譲らなかった。

「……まだ、できるよね」

ナマエは、淡く微笑みながら再びブチャラティの股間に手を伸ばす。彼女がそうして触れる前からすでに硬度を取り戻していたそれに触れて、また嬉しそうににこりと微笑む。

「これで、私も欲しかったの伝わった?」
「……ああ、十分な」

言いながらブチャラティは、隣に寝転んだナマエの額にくちびるを押し付ける。それから続けてちゅっと音を立てたキスをしてから、ナマエの方に身体をむけて、先ほどまで自分の指を受け入れていた、彼女の脚の間に再び手を伸ばす。

「んっ……あ、……」
「……熱いな」
「それは、ブローノも、でしょ……」

欲しい、お互いが欲しい、だからこそ相手の熱源に触れて溶かし、そして相手にふれられる自分の身体も簡単にはげしく熱を持つのにも気づいていた。
熱の塊のようになったふたりぶんの身体が零す音を聞きながら、自分の手で乱れる相手の顔を見つめながら、ふたりはあっというまに身体に熱を取り戻していた。

「も……だいじょぶ、だから、きて……」

彼女のうわ言めいた言葉に頷いて見せたブチャラティは、S・Fの能力で自分の身体の中に仕舞い込んでいたコンドームのパッケージをどこからともなく取り出すと、それを歯に咥えてパッケージを破る。熱に浮かされた目でナマエはそれを見つめていた。そうしながらも、心臓の音がさらにひときわうるさくなるのに気づいていた。やましい期待で膨れ上がりそうな自分の欲を、ブローノ・ブチャラティが受け止めてくれる――その尊さを、思わずにはいられなかった。

「いっ……!」

だが、お互いの顔をみつめながら、かつてのように正面から繋がろうとしたとき、ナマエは思わず快感とは違う声を漏らしていた。
ブチャラティは慌てて押し進めるのを止めた。それから大丈夫かと何度も囁きナマエの頬に触れてその顔を覗き込む。

「大丈夫、だけど……ひさしぶり、だから……ごめん……」
「っ、……謝らないでくれ、……頼むから」

ブチャラティと離れている間に彼女の隘路は閉ざされており、ブチャラティのものを受け入れるのは容易ではなくなっていた。
これまでだって決してナマエに負担が無かったわけではない、とブチャラティは思っていた。いつでもナマエを気遣いゆっくりと進めていた彼は今、さらにひどく苦労しながら、彼女が息を詰めるのを、身体を震わせる小さな反応のひとつひとつを、すべて見極め掬いあげ、そしてなるべく痛みが浅くなるように彼女に口づけ、耳に舌で触れ、とにかく彼女が苦しくないようにと熱を与え続けていた。

だがそれでも身体をひらかれる痛みで呼吸を浅くするナマエを、ブチャラティはきゅっと眉を寄せて見つめる。
ふたりともがひどく汗をかきながら、なんとか繋がろうと必死になっていた。二人分の体温の中、あごの先からこぼれたブチャラティの汗がナマエの首筋にこぼれる。

ナマエは、甘い痛みの向こうで、自らの汗でまつげが上げにくくなっているのを感じていた。その向こうで少し苦しげに、それでも自分を求めるブチャラティの姿を見たナマエは、この状況の中で思わず緩む自分の口元に気が付いていた。

(はじめて、ブチャラティとしたときみたい……)

あのときはもっとひどかった、お互いがまさかこんな関係になるなんて、……なれるなんて、想像も出来ていなかったから。見上げてぼんやりと微笑むナマエに気付いたブチャラティは少し眉を下げてささやく。

「もしかすると……寝た姿勢の方が、辛くないだろうか」
「ん……そうかも……」

彼女の言葉に頷いてみせると、ブチャラティはふたたび何度もナマエの額にキスを落としてから、そっとナマエをうつ伏せにさせる。そして、彼女の背中側から身体をのせ重ねるように抱きしめた。

(……う、わ……)

ナマエは、そうやって体重をかけられ、まるで彼に全身を包み込まれるような感覚だけで肌が粟立つ自分に気が付いていた。
たまらなくなって、そっと首だけを後ろに向ける。すぐ近くにブチャラティの顔があり、少し首を後ろに向かって伸ばすだけでくちびるとくちびるが重なる。軽く歯を立てて、吸って。身体全体を覆われるように背後から抱きしめられながら甘い熱を交換するようなキスをしていると、簡単にもう一度ナマエの身体に熱が灯る。

「いい、だろうか」

ブチャラティが律儀にそんなことを聞いてくるのも愛おしくて、ナマエは緩く口角を持ち上げながらうなずいた。上気した自分の肌よりもずっと熱くて硬いものがあてられる、強張った身体に気付いたブチャラティが軽く頭を撫でてくれるのを感じる。

「っ……あ、……!」
「……っ、苦しくはないか?」
「だいじょうぶ、だから……最後まできて」

心配そうな色をのせて耳元でささやかれたブチャラティの声に、ナマエの身体は軽く震えた。ブチャラティを振り返って囁かれた彼女の言葉に一瞬ナマエを見つめ返してから、ブチャラティはゆっくりと彼女のナカに自らの熱を押し進めていく。

「あ、っ……ん、ぅ」
ナマエがこぼした声に、先ほどまでとは違う甘さと熱が混じり始めたことに、ブチャラティは静かに安堵していた。

「……く、……」
それでもブチャラティを包む熱は狭く、気を抜くとあっという間に達してしまいそうになるのをこらえて、奥まで進めていく。

彼の熱を受け止める方のナマエは、ふたたびブチャラティの肌と自分の肌が重なったその時、奥まで入った、そう気づいた瞬間、自分の瞳から一粒涙がこぼれたのに気づき驚いていた。
だが、同時に不思議な話ではないと思った。このブチャラティの腕の中で、こうして熱を分け与えられ、求められている。そう実感した時、ああ自分は帰ってきたのだと、彼のいるところ、自分がいるべきところに帰ってきたのだと、そう実感できたのだから。

「ブローノ……」
「……ん?」
その呼びかけに、ブチャラティはかすかな息の音に混じった低い音で返事をした。

「……動いていいよ……」
「……っ、ああ」

ブチャラティがゆっくりと腰を引いて、それからもう一度押し付ける。彼のモノで自分の中が開かれるたび、触れられるたび、ナマエの指先にも爪先にも甘く熱い快感が走った。
「あっ! あ、……んっ、ぁ、あ」
後ろから抱きしめられながらそんなことをされれば、身体の外側も内側もブチャラティに埋め尽くされるような心地になるばかりだった。

何度も、何度も、奥まで、しかし激しさはなく、ただ優しく甘やかされるようにとんとんと身体が開かれる感覚。だがそれと相反するように、後ろから抱きしめてくるブチャラティの腕は、離れていたことを惜しむように息だってできないくらい強く抱きしめてくる。荒い息が耳元で響く。

「……ナマエッ…」
「っ…あぁ、ッ……」

耳もとで名前を囁かれて、彼の鼻先が耳元に摺り寄せられぐっと頭を押し付けられる。ナマエが頭をすり寄せ返すように持ち上げて顔を後ろに傾けると、熱っぽい目でナマエを見つめるブチャラティと目があった。

そのまま吸い寄せられるように口付ける。お互いに夢中でくちびるを食み、舌を絡める。口の端からこぼれた唾液は甘く、そして汗に混じっていく。

「きもちいい……」

ナマエのその一言に、ブチャラティはたまらなくなったかのようにぐっと体重をかけて、ナマエの身体との一切の隙間もなくすように後ろからのしかかるように抱きしめる。そうしながらも、動きを止めるつもりはなかった。ナマエは、マットレスについた肘をぺたんとベッドの上に折りたたむようにうつ伏せの姿勢になると、先ほどまでと違う場所を責められる感覚になって思わず声をあげる。

「あ、…っ! あ、あ、……!」

いつの間にか汗と熱で身体の輪郭が溶けていくようだった、自分に覆いかぶさるブチャラティの身体によってベッドに軽く押しつぶされて閉じ込められるようなこの重さだけでも、ナマエは確かな快感を覚えていた。くわえて、ブチャラティの熱が濡れた音を立てて自分を押し広げて奥まで触れてくる。高い体温、どちらのものかわからない汗の感覚、その香り、かけられた体重――ブチャラティから与えられる全てに、ナマエの感覚は揺さぶられ、ちかちかと視界に星が飛ぶような気さえした。

「まっ……て、あ、んんッ……」

蕩けさせられた身体はあっという間に限界をむかえ、ナマエは身体を震わせて達していた。手のひらがきゅっと握りしめられ、ブチャラティのモノを彼女の身体が締め付ける。

「っ、……く、」

その感覚に、ブチャラティもぶるりと身体を震わせる。それでもまだ達するにはあと少しの熱が必要で、ブチャラティは彼女の耳元で低くささやいていた。
「もう少しだけ、……付き合ってくれ、すまない……」
「あっ!? あ、ッ……んんッ……!」
達したばかりのところを何度も責められれば、簡単にまた熱は取り戻されてしまう。何度かそうして熟れたそこを責められ、ブチャラティが自分の中で達したその感覚で、ナマエはもう一度小さく達していた。ブチャラティはそのナマエの後頭部に、うなじにキスを落としながら、彼女のナカから自分の熱を抜き去った。

室温が何度かあがってしまったかのような寝室に、二人分の荒い息の音が満ちていた。ブチャラティが手早く〝後処理〟をしてすぐにベッドに戻ったとき、ナマエはブチャラティの方に身体を向けて、ふにゃりと微笑んでささやく。

「ブチャラティ……お誕生日、おめでとう」
「!」
「言えてなかったから……忘れないうちに、」

ブチャラティは、ナマエの言葉を遮るように彼女を抱きしめていた。一瞬その仕草に驚いたように目を丸くしてから、再びゆるく微笑んだナマエはブチャラティの背中と後頭部にそっと腕を回す。すべてわかっている、そう伝えるかのような柔らかな手付きで何度もブチャラティを撫でる。

「ありがとう」

ブチャラティが囁いたその一言は、どこかかすれていた。そのかすれた囁き声のまま、ブチャラティはナマエの耳元で続ける。

「……オレも、言えていなかった」
「何?」
「……おかえり、ナマエ」

その一言で十分だった。
ナマエの指先まで柔らかな熱が満ち、それがたとえ仮りそめのものだとしても、彼の元に戻ってきた安堵と幸福に満たされるには、十分だった。

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