その名は希望

その名は希望 -6-

 顔にかかる朝日のまぶしさで、目が覚めた。 強い日差しに顔をしかめながら、明るさに目をなじませるように少しずつまぶたをこじ開けていく。そうして見えてきたあたりに広がっていたのは、見慣れない部屋の風景だった。……一瞬、理解に時間がかかってから…

その名は希望 -5-

 ふたりで、彼女のベッドに隣り合って腰を下ろしている。指先だけをわずかに触れ合ったままにしていれば、そこからまるでお互い感電するみたいに、しびれるように熱い。「……せっかく整えてもらったって髪だが、くずしてもいいのか」 隣に顔を向ければ目に…

その名は希望 -4-

 きっとオレの中にあったのは、とんでもない傲慢だったのだ。オレだけがあいつを理解できるのだという傲慢、そしてあいつにはオレしかいないのだ、なんて思い込むという傲慢だ。 ……あいつはもう、ひとりで立派に生きている。それをいつまでも子供扱いして…

その名は希望 -3-

 裏社会のごたごたに巻き込まれて怖い思いをさせられたカタギの女。 一言でいえば、それが彼女だった。 そんな女が、裏社会の権化のようなギャングから好意を寄せられていることを知ったら、……あるいは、好意を伝えられたとしたら、どう思うだろうか。 …

プロローグ 「群明暗光」

 荒れた海の恐ろしさを、オレはよく知っていた。 進むべき航路を辿ることすら難しく、しかも船は人を乗せていることを忘れたかのように、こちらを振り落そうと激しく揺れ続ける。そんな目にあえば、人間なんてものはそもそもちっぽけな存在で、自然にしがみ…

その名は希望 -2-

 あの雨の晩からしばらくして、あいつは、あるトラットリアで下働きをはじめた。そしてそこのオーナーのとりはからいで店の上の空き部屋を借り、今はそこで暮らしている。 結局、オレの家であいつが寝泊まりしたのは二週間かそこらだった。オレとしてはいつ…